腹腹腹

科学的に言えば奇妙なことでも、他に適当な言葉が見つからない限り、使われ続けるんだな~と、ふと思った。

 

心を司っているのが脳であることを知らなかった時代、心はお腹に宿るものと信じられていたそうな。

今でも「腹が立つ」「腹の探りあい」「腹を割って話す」「腹黒い」「~という腹」「腹案」などという言葉は名残りとして日常的に使われている。しかし、現実的には、腹が立つってどんな状態?だし、腹を探ったらくすぐったいし、腹を割れば痛いし、腹が黒いかどうかなんて肌の色を比べてもどうかと思うし、中身なんて外科医でもなければよく分からない。しかし、腹案は、言いえて妙な気がする。

 

リアリティがあるのは「腹を抱えて(笑う)」「(面白くて)腹が痛い」など。

 

科学的には奇妙なこともあるが、一方でリアリティもある。

ひょっとしたら真実なのかもしれない。

 

そういえば、腹は「おなか」とも言う。

通常は「腹」と書けば「はら、フク」だろうが、「お腹」のときは「なか」となる。

 

「“おなか”が痛い」「“おなか”をさする」「“おなか”が減った」は、比喩とも言えるが、現実的に発生するので完全な比喩でもない。

しかし、「なか」である以上は、本来は「中」だろうし、当て字として「腹」が付いたのだと思う。

 

女性が妊娠すれば「おなか」が大きくなる。そこは神秘的で聖なる場所。

「おなか」に居るのは当然子供なのだが、つまり、穢れていない。最も神聖な状態の生命体が存在している場所として「おなか」と言っても無理はない。

 

だから、腹は中であり、真実・本心を意味していると考えられる。

 

 

さて、困ったことに「背中」という言葉がある。

 

「おなか」に対して「背中」なのかと思うが、「背中」と言ったときの「中」には内側とか、真実・本心という意図は感じられない。

 

この語源を見てみると、「背中」の「中」は上中下における「中」らしい。

http://gogen-allguide.com/se/senaka.html

背面から見たときに、胴体が「中」にあたると思えば、確かに「背中」で良い。

ただ、頭部を背上とか、下半身を背下とか聞いたことは無いが。。。

 

「おなか」は「御中」とも書くそうだが、なんだかややこしい。

 

きっとそんなややこしさを避けるために、「おなか」と言う場合は「お腹(御腹)」と書くようにしたと思われる。

 

しかも「御中」って、会社宛の郵便物などで敬称として使う「おんちゅう」とも読めるから、書き言葉として「御中」と書くのは「おんちゅう」に限定させたいのだと思う。

(間違いという訳ではないが)

 

今まで無意識だったけど、そう考えればすっきりする。

 

ちなみに「おんちゅう」は、「おなか」とは全然異なるようで、「会社の中にいる皆様」という意図らしい。ちなみに、このページにあることが由来だとすれば、宛先の主人に対する差出人の気遣いを感じる。

http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa2573626.html

とはいえ、現代ではこんなことまで意図する必要はないと思うし、むしろ特定の個人が分からないので「御中」で済ませているようにも思える。

 

 

当初の話から反れてしまったが、中とか腹とか、色々な意味合いがあることを改めて認識した。

 

また、「腹黒い」に代表される「腹」の比喩的な表現は、ちらっと調べた限りでは日本独特の表現だと思われる。

最も可能性がありそうな中国語には「腹黒い」は「大黒了」と言うそうで、「腹」には触れていない。

 

http://xn--fiqs8s568b.1af.net/article/304567844.html

http://cjjc.weblio.jp/content/%E8%85%B9%E9%BB%92%E3%81%84

 

 

ただし、腹案は「腹稿」と表現される場合があるようなので、完全に日本独特とも言い切れない。

http://cjjc.weblio.jp/content/%E8%85%B9%E6%A1%88

 

また、「棒腹大笑」という中国語もある。日本語では「抱腹絶倒」であるが、どうやら誤用が慣用となってしまったようである。

http://www.geocities.jp/tomomi965/ko-jien06/ha16.html

 

 

このように部分的には中国語に由来する表現もあるが、たとえば「切腹」に現れるように日本人にとっては最も重要な部分として「腹」が用いられてきていたことが窺われる。

 

たまたま「腹」に関しては日本人独特の観念が詰まっていると考えられるが、他の言語においては、日本人には理解しがたい表現が数多くあるだろう。

 

 

コトバの勉強は果てしないが、ひとつひとつでも調べていけば、面白い